ショウジョウバエの管理法

 カマキリの若令幼虫のエサに適したショウジョウバエですが、そのなかでも特に重宝するのがフライトレス、ウイングレスといった突然変異形質の系統でしょう。しかしエサとして消費する度にこれらのショウジョウバエを購入していては高くつきますので、ある程度はご自分で累代して増殖させることをオススメします。しかし初めてショウジョウバエをブリードする方にとっては、コツも掴みにくいでしょうし、思うように次世代が殖えてくれずに苦労なさるかも知れません。

 私は外国産カマキリのブリードとともに、長い間ショウジョウバエをブリードしてきました。そのなかで、自分なりにムダが少なく、効率的な管理を行ってきたつもりです。ここでは、私が実際に行っているオリジナルのショウジョウバエ管理法をご紹介します。大したものではありませんが、この管理法は私が数年来用いてきて何の問題もなかったものですし、一応の成果はあります。この項を参考にするも良し、読んでいただけるだけでも良し、何らかの形でお役に立てれば幸いです。


[ Mantid Maniacs式 ショウジョウバエ管理法 ]
1.はじめに、500mlの丸型ペットボトルで上部に窪み(写真;矢印)があるものを綺麗に洗浄し、用意します。角型のペットボトルや、上部に窪みがないデザインのものは使えません。大事なのは、上部に窪みがあるということと、窪みの1cm程度上の断面が真円であるということです。近年お茶のボトルに用いられるようになった、中間がくびれているデザインのペットボトルも、上部に窪みがあるので培養ビンとして使うことができます。
 


2.ペットボトルを、窪みの上5〜10mmの高さから切断し、上部は捨てます。これで培養ビンの原型は完成です。



3.中に培地を入れます。当方では基本的にSPHERO AQUAさんの培地を用いていますので、培地の作り方はそちらを参照して下さい。培地の深さは写真の通りです。これより浅過ぎると培地の乾燥が早くなってしまいますし、逆に深過ぎても培地の底付近は酸欠気味になり、ウジは表層しか食わないので無駄が生じてしまいます。私の経験では、ペットボトルに対して写真の示す深さくらいの培地量が適切でした。培地を入れた後は、上部にティッシュをかぶせて輪ゴムで固定します。このためにペットボトル上部の『窪み』が必要なのです(写真;矢印)。角型のペットボトルが培養ビンとして使えない理由は、この方法でティッシュのフタをした場合に、隙間が生じやすく成虫が逃げてしまう可能性が高い(私は経験あり)からです。当方の管理法では、広口の培養ビンにティッシュをフタとして用いるので、十分な通気性が確保できます。外気が過剰に乾燥していると通気性の良さがアダとなってしまうので、フタとするティッシュは季節によって2つ折りにしたり4つ折りにしたり、各自調節して下さい。基本的(乾燥していない季節)には、2つ折りが適当です。
また、培養ビンのなかに厚紙や園芸ネットなどを(培地に差し込んで)入れておけばショウジョウバエの止まり場所になりますが、私はこれに相当するものを入れていません(個人的には邪魔だと思っているので…)。止まり場所を入れない場合には、ショウジョウバエを適切な密度で培養ビンに入れ、かつ成虫が足をとられないような培地の固さが求められます。慣れないうちは止まり場所を入れておいた方が無難かも知れません。
※ここでは人工培地を用いていますが、ショウジョウバエは英名『fruit fly』の通り、過熟した果物によってブリードすることもできます。果実を用いる場合にはバナナがオススメです。皮をむいて折ったバナナなどを入れておけばよいのですが、果実からは過熟・腐敗時に大量の水分が染み出してくるので、ショウジョウバエが溺れてしまう恐れがあります。これを防ぐために、予め培養ビンの底に4つ折りにしたティッシュなど、余分な水分を吸い取ってくれるものを敷いておいて下さい。
 


4.次に、ショウジョウバエの移し方をご説明します。扱うのは飛べない形質のショウジョウバエですから、培養ビンのなかに大量にいても慌てることはないのです。フタのティッシュを外す前にショウジョウバエの入った培養ビンを1度机から浮かせ、ビンを手で持ったまま底を「トンッ」と軽く机に叩きつければ、成虫はみな培地の上に落下します。
 


こうすればショウジョウバエをまとめて落とすことができるので、成虫の移動は容易です。例えば、下の写真において、成虫の入った右の培養ビンから新しい左の培養ビンに約半数の成虫を移動させるには、まず右のビンの成虫を全て培地の上に落とし、両方のビンのフタを外します。
 


次に、成虫が入っている方のビンを傾け、ビンの口付近を「トントントン…」と軽く叩きながら成虫を左のビンに落としていきます。ちょうど、フリカケを少しずつご飯にかけるような感覚と同じです。このとき、左の培養ビンのなかに落ちたショウジョウバエはビンを登って外に出ようとしますが、慌てる必要はありません。左のビンの高さ2/3にまでショウジョウバエが登ってきたら、一旦右のビンからハエをふりかけるのを止め、左右両方のビンをそれぞれの手に持ってフタ(ティッシュ)をしないまま「トンッ」と軽く机に叩きつけます。こうすれば両方のビン内の成虫は外に出ることなく培地の上に落下します。2本のビンの成虫が全て落下したら、また成虫の多い方のビンから少ない方のビンへふりかけ、数を調整します。成虫の数が均等になったら、成虫の移動は終わりです。これで、1頭も逃がすことなく成虫を移動させることができます。
※ちなみに、一方のビンからもう一方のビンに成虫を全て移動させるときには、成虫の入った方のビンをより急な角度で傾け、傾けた方のビンの口付近ではなく底を、今度はフリカケではなく鼓(つづみ)を叩くように「ポンッ」と叩けば、ほとんどの成虫がもう一方のビンへ落下します。2・3回も叩けば、全ての成虫を新しいビンへ移動させることができます。
※また、『新しいビン』の代わりに『カマキリのケージ』を置き換えれば、この方法で培養ビンから直接カマキリのケージにショウジョウバエを入れることが可能です。私はカマキリにショウジョウバエを与えるときは、数年来この方法を使っています。余計な器具を使うことなくショウジョウバエを各ケージに数頭ずつ給餌することができるので、かなり楽です。
 


この成虫の移し方が難しいと感じるられるかも知れませんが、それは単に慣れていないからそう感じるだけの話です。1度慣れてしまえば、これは余計な器具を必要としない最も簡易で効率的な移動法だと思います。慣れない内は数頭のショウジョウバエがうまく新しいビンに落ちずに外に落ちてしまうかも知れませんが、このとき大事なのは、移動作業の途中なら外に落ちた数頭に気をとられてはいけないということです。経験上言えることですが、逃げた(外に落ちた)個体を気にしながら『フリカケ式の移動』をすると、注意が逃げた個体に向いてしまい、さらに多くのショウジョウバエを新しいビンの外に落としてしまいがちです。彼ら飛べないショウジョウバエは大した移動力がありませんし、こちらの移動作業が終わってから回収しようとしても十分間に合います。


5.最後に、成虫の移動が完了した培養ビンの管理法を説明します。ショウジョウバエ管理の1番の敵は、何と言ってもダニです。秋〜冬にかけては大発生することは少ないですが、夏の高温多湿な時期はふとしたきっかけでダニが大発生してしまうことがあります。ダニは培養ビンのわずかな隙間から侵入し、培地を食って大量に増殖します。ダニが混入した培養ビンではウジがうまく育たず、また衛生的にも問題があります。さらに、ダニがわいてしまった培養ビンからショウジョウバエだけを単離するのは困難を極めます。…と言いますか、私は個人的にダニが大っっっ嫌いです。そんなダニ嫌いの私が実践しているダニ避けの培養ビン管理は、以下の通りです。用意するのは浅めのタッパーかバットで、浅く水を張ります。これに少量の界面活性剤(もしくは台所用洗剤)を入れ、培養ビンを置く…ただそれだけです。このとき注意しないといけないのは、培養ビンが必ずタッパーやバットの縁に触れないように、水の真ん中にビンを置くということです。縁に触れてしまっていると、そこを経路にしてダニが侵入してくるので、せっかくの水が無意味です。長い期間水を張ったままにしておくと水面にホコリが蓄積してきます。しつこいダニはこのホコリさえも足場にして水を渡り、ビンに到達しますが、界面活性剤を水に添加しておけば、表面張力が働かなくなり、ホコリが水面に蓄積しにくくなるので、ダニが水を渡ってビン内の培地に辿り着くのを防ぐことができるのです
タッパー(またはバット)の水は徐々に蒸発して水位が浅くなります。水が完全になくなってしまわないように、時々水を足して継続的にダニの侵入を防ぐことが大事です。
 


以上で、当方のショウジョウバエ管理法のご紹介を終わります。ショウジョウバエ成虫を新しい培地入りのビンに移動した後のことや発生サイクル、基本的な飼育法についてはSPHERO AQUAさんのHPの情報と重複しますので割愛しました。詳しくはそちらをご参照下さい。
また、当方の管理法についてはある程度わかり易くご説明したつもりですが、疑問点などございましたらご遠慮なくおっしゃって下さい。


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