分布:マレー、ジャワ、スマトラ、タイ、ボルネオ
和名:ハナカマキリ、ハナビラカマキリ、ランカマキリ
英名:orchid mantis
言わずと知れた擬態の代名詞であり、我々日本人にとっても馴染み深い。元々は『ハナカマキリ、ハナビラカマキリ』といった呼称が一般的であったが、最近は英名『orchid mantis』を訳した『ランカマキリ』という和名がペットルートでは一般的なようだ。体色は白色、桃色、黄白色。桃色個体の体色は老熟とともに、黄白色へと変わってしまうことが多い。マレー半島産とジャワ島産の個体はメス成虫の体長において差があり、前者が7〜9cmであるのに対し、後者は6.5cm程度にとどまる。前翅及び中肢、後肢に現われる褐色の斑紋はジャワ産よりもマレー産において顕著である。ただし、マレー産のものでも小型個体はジャワ産のものに似た斑紋を持つ。ここ1〜2年、小型のジャワ産個体が大量に入荷する一方で、主産地であるキャメロンハイランドでの減少や現地での捕り子の減少といった要因により、マレー産個体の入荷が激減してしまったことは残念である。両産地のものは亜種分けされていないようであるが、本来遺伝子交流のない産地同士であることを考えると、飼育者は安易に産地ミックスの交配はしないでいただきたい(流通させるつもりがなく個人で楽しむのであれば、この限りではない)。
本種は性的二型が激しく、オス成虫はメス成虫の半分以下の体長しかない(3.5cm程度)。それ故に本種は独自の交尾行動をとる。一般的にカマキリのオスはメスによる捕食を回避するために交尾後直ちにメスから離れるが、本種は交尾姿勢をとった(メスに飛び乗った)後、前肢でメスの背中をドラミングしてメスに自らの存在をアピールする(…アピールしているのだと思われる)。そして交尾器の接合が解除され、交尾が終わった後も交尾姿勢をとったままメスの背中に数日にわたって留まるのである。なぜこのようなことが可能なのかというと、オスはメスに比べてかなり小さいので、背中に乗っている限りメスの鎌が届かないので、メスに食われる心配がないのである。また、なぜオスが交尾後もメスの背中に留まるのか疑問が生じるところであるが、これはオンブバッタのオスと同じく、メイトガードの行動であると思われる。
本属には他に中国雲南省周辺に生息するHymenopus coronatoidesという種が存在するようであるが、詳細は全く不明である。
本種は、産卵後2ヶ月弱で40〜80頭くらいの幼虫が卵嚢から孵化してくる。幼虫の飼育環境としては、高めの湿度を保つことに留意すべきである。1令幼虫はあまり大きい方ではないが、トリニドショウジョウバエを問題なく捕食することができる。その後、4令程度まではショウジョウバエだけ与えても加齢させることが可能である。この頃から、雌雄で体格差が生じ始める。その後雌雄の体格差は一層顕著になり、以降の(雌雄同居の)多頭飼育はオスの集中的な被食という結果に繋がるので、同じ多頭飼育をするにしても4令以降は雌雄を別にして飼った方がよい。さらに、4令以降空腹になった場合はメス同士であっても共食いが時々起こるので、欲を言えば1頭ずつ個別飼育した方がよい。多頭飼育を貫く場合は、メスが空腹にならないよう多めにエサを与える必要がある。オス幼虫同士はほとんど(私は1度も経験していない)共食いをしないので、多頭飼育で問題ない。特に成長を制限することなく飼うと、オスはメスより1ヶ月以上早く成虫になる。
ペアリングについては、交尾を『させる』際の難易度は外国産カマキリのなかでもかなり低い部類に入る。オスは交尾後もメスの背に留まるが、飼育する上ではオスをその状態のままにしておくメリットはないのでメスから引き離して給餌し、次の交尾に備えさせた方が賢明である。メスは交尾後、死ぬまでに平均2〜3個程度の卵嚢を産む。
<写真>
標本
メス終令幼虫(マレー産)
メス成虫(左:ジャワ産、右:マレー産)
交尾(左:マレー産、右:ジャワ産)
威嚇
羽化
ドラミング
1令幼虫
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