拒食
 飼育するなかで気付くと思いますが、カマキリは与えたエサを食べずに拒食する個体が一部います。こうした個体は元々淘汰されるべき個体であったというよりも、輸送などの環境の変化により一時的にコンディションを崩しているのだと思います。事実、拒食が解消されれば持ち直して元気になる個体がほとんどです。拒食の程度には段階がありますが、まずは別項に紹介しているように、カマキリの嗜好性が高いエサ(鱗翅目・双翅目昆虫の成虫など)を与えてみて下さい。それでも自分でエサを食べないようであれば飼育者が食べさせてやる必要があります。しかし、拒食に陥った個体は飼育者がただピンセットでエサを口元に持っていっても、食べることを拒否することが少なくありません。そこで以下に、私が考えた『拒食個体に拒否されないエサ』をご紹介いたします。このエサは私が今まで与えてきたところ、満腹でない個体ならほとんどが食べました。

1.用意するのはコオロギとハチミツ、そして水です。まずハチミツ少量を等量の水(双方の分量はご自由に)に完全に溶かします。

2.次に、コオロギをピックアップします。カマキリのサイズにもよりますが、できれば大きな幼虫かオス成虫がよいです。メス成虫の方が卵をたくさん持っているので栄養的には良さそうですが、カマキリはコオロギの腹部に詰まった卵を嫌うことが多いです。選んだコオロギの体を押さえ、頭部をピンセットを使ってゆっくりと引きちぎります。このとき、ゆっくりと引っ張ってコオロギの消化管まで引き抜いてしまうことが重要です(カマキリはコオロギの消化管を嫌うことがあるので、カマキリの嫌がる消化管は除去してしまいましょう(写真1)。

3.さらにコオロギの両前肢も引きちぎってしまえば、よりカマキリの口元にピンポイントで与え易いです。コオロギの腹部を圧迫し、切断面から内部組織がはみ出すようにします。そして内部組織の露出したコオロギの切断面を1のハチミツ水に浸します。ここでエサへの処理は終了です(写真2)。

4.3のエサをピンセットで持ち、ハチミツ水のついた切断面をカマキリの口に触れさせます(写真3)。エサを口に触れさせるときは、カマキリに気付かれないようにして下さい。カマキリが飼育者の持つエサに気付いてしまうと後ずさりしてしまい、この状態で無理矢理エサを口に触れさせようとしても、激しく抵抗することが多いです。さらに、ピンセットに持ったエサはカマキリの口以外の部分(鎌など)に触れないようにします。過敏な個体は、接触を激しく拒否しますので…。

5.うまく4の工程をこなし、カマキリの口にエサの切断面を触れさせることができれば、カマキリはまず切断面についたハチミツ水を舐めます。そしてやがて舐める動きは咀嚼に変わり、コオロギを切断面から食べ始めます。この間、飼育者はピンセットを動かさないよう心掛けてください。『舐める』から『食べる』に移行したカマキリは、しばらくするとエサを鎌で掴みます(写真4)。ここまでくれば成功です。あとはゆっくりピンセットをエサから離してやって下さい(写真5)。エサを食べ終わるまで、カマキリを移動させたり刺激したりしない方が無難です。拒食する程ナイーブな個体ですので、刺激されるとせっかく食べていたエサを捨ててしまうことも少なくありません。

 少々手間のかかる方法ですが、カマキリがこのエサを食べてくれる確率は当方では非常に高いです。拒食個体には満腹になるまでこのエサを与えて下さい。段階的に、2、3回に分けて食べさせて満腹にさせたほうが無難かも知れません。やがてコンディションを良くした個体は、自分でエサを捕るようになります。そうならなくても、この手法でエサを与えれば問題なく交尾・産卵まで生き永らえさせることが可能です。

6(裏ワザ).5の状態でエサを自分の鎌で掴んで食べている個体の口にもう1つ、3までの処理をしたエサを触れさせると、カマキリはもう1つのエサも食べ始め、新たにもう片方の鎌でこれを掴んで、エサを両手に1つずつ持った状態で食べます。こうすればカマキリがエサを食べ終わるのを待つことなく次のエサを与えることができるので、時間の短縮ができます(カマキリが同時に掴むことのできるエサは2頭までです)。この裏ワザは、拒食個体のリカバリーでは程々に用いて下さい。やはり過敏な個体は、2つのエサを持つどころか両方のエサを放り投げてしまうことがあるので…。この裏ワザはメスを短時間で満腹にさせるのに効果的です。その意義は、雌雄を同居させる際にメスによるオス食いの確率を0に近づけることと、産卵数を増やすためにメスを太らせることです。

 ここで紹介したのはコンディションを崩した個体が拒食した場合の対処法ですが、カマキリは正常な個体でも脱皮・羽化の前には長くて数日間、拒食します。病的な拒食と脱皮・羽化前の正常な拒食の見分け方を以下に紹介します。
 まず、羽化前の拒食であれば幼虫の翅芽(翅になる部分)が膨らみ、内部で翅が準備されているのがわかります。さらに、体勢にも変化が現われます。通常、カマキリは静止時に前肢(鎌)を「グッ」と握った状態でいますが(写真6)、脱皮・羽化が近くなると鎌を半開きと言いますか握っていない状態になります。うまく言えませんが、「ダラ〜ン」とした感じです(写真7)。
 脱皮・羽化前の個体の拒食は何の異常でもありませんので、無理に給餌する必要はありません。と言いますか、無理に給餌しようとしてもこのような個体は頑なに食いません。



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